小さい頃、泣いてた私をなだめようとしてくれた蝶の髪飾り。
きらきら光ってて綺麗で。
貰って直ぐに泣き止んだ私を見て笑顔になってくれた。
そんな笑顔を見せられたら急に胸がきゅん、となった。
でも、ありがとう、とだけしかそのときは言えなかったんだ…


【お兄ちゃん】


「おーい、早くせんと遅刻するで?」
「え、ヤバっ…!」

目覚まし時計セットし忘れた!?

慌てて起きる様子の私を開けたドアの所から見てるおにぃちゃん。

「…嘘。今日は学校休みやで?」
「あ…おにぃちゃんのばかぁ!!」

拗ねて見せるといつもの様にニカって笑う。

「ごめんって、な?」
「むぅー…」

今日もいつもと変わらない1日。
うん、『変わらない』…
今は殆どおにぃちゃんと2人だけで住んでいる。


おにぃちゃんが『お兄ちゃん』になったのは10年前。
私は事故で両親をなくして、お父さんの友達夫婦の家に引き取られた。
その家族にも1人子どもがいて。
それが『おにぃちゃん』だった。
私はその家族に引き取られたわけだから当然『妹』になるわけで。
当然『お兄ちゃん』もできるわけで…

最初は戸惑って泣いてばかりだった私。
必死に元気にしようとしてくれたおにぃちゃん。
そんな私たちも次第に仲良くなって、新しい家族ができてから10年が経った。


「あーあ、早起きして損した」
「早起きは三文の得、ってな」
「もうーいちいち煩い!!」
「はいはい」

…ホントは朝早くからおにぃちゃんと2人でお喋りなんて嬉しい、って思ってたり。
幸か不幸か、おばさんたちはおじさんの単身赴任先にずっといるからこの家では今は2人きり。
2人きりなのは嬉しいけど、気持ちの持って行き場がないなぁとも思ってしまって。

「ん、これ…」
「え…?」

ボーっとしてたらおにぃちゃんが何かを手に取ってた。
あの蝶の髪飾り、だった。

「これまだ持ってたんか」
「うん、おにぃちゃんがくれたものだし…」
「大事にしてくれててありがとうな」
「うん…」

またニカって笑いながら寝癖のついた髪を撫でてくれた。

…反則だよ。

「でももうずっと前に買ったヤツやんなぁ?言ってくれたら新しいのなんぼでも買うたるに…」
「いいの。…あたしはこれで充分」

初めておにぃちゃんに貰ったもの。
密かに一緒に貰ったのは『恋心』。
叶いっこない恋だってわかってる。
でも形あるものを1つでも残しておいたら望みはいつか叶うんじゃないか、って思わせてくれる。
…所詮夢物語だけどね。

「『お兄ちゃん』…」
「ん…?」
「え、あ…何でもないよ」

おにぃちゃんはきっと、私がおにぃちゃんのこと好きだなんて微塵も思ってないだろうな。
でも今はそれでいいんだ。
こうして一緒にいれるだけで…

「ねぇ、」
「今度は何だ?」
「…ずっと傍におってね。私の前から突然いなくならないでね」
「おう!ずっと一緒におったるで!!」


もしもいつか、『お兄ちゃん』じゃなくなったとしても、そう言ってね?



あとがき