【髪】


「ねぇ…」
「んー?」
「何してんの?」
「髪触ってるの」

彼はあたしの髪を触るのが好きだ。
というか弄っている。

「うん、わかってるけど…」
「なら訊かなくてもいいじゃん」
「でもさぁ…」

何やらあたしの髪は格段に触りごごちがいいという。
特別なこと何もしてないのにな。
ただ…

「やっぱいいなぁ、お前のロングヘアー」

そう、彼はロングが好みらしい。
それを知ってからわざとあたしは髪を切らずにいる。
でもたまに飽きてくるんだよね、ロングって。

「もしさぁ…」
「え、何?」
「あたしがいきなり髪ショートにしたらどうする?」

一瞬彼の手の動きが止まった。
それ程に動揺させることだった?
やっぱりあたしが『ロングヘアー』だから一緒にいるの?
負の考えが出てきて哀しみが沸き起こってきた。
そしたら何もなかったようにまた髪を弄りだして。

「そうだなぁ、吃驚はするけど…案外嫌じゃないかも」
「え…?」
「確かにどっちかって言うと、断然髪の長い子の方がいいって答えるよ」
「うん…」
「付き合うきっかけはそれかもしれないけれど、彼女がショートにしたらサヨナラっていう冷たい男ではないさ」
「そ…だよね」
「…もしかして今までそれで無理させてきた?」

いや違う。
あたしは優しく触れてくれる彼の手が好きだったんだ。
だからさほど髪を伸ばすのが苦痛でなかったんだ。

「ううん、そんなことないよ」
「ごめん、髪、切りたい?」
「ただ言ってみただけだよ」
「そう?」

「ねぇ…」
「1回バッサリいってもいい?」
「髪?」
「うん。今回だけだから。ダメ?」
「んー…髪弄れる程度にしてね」
「ショートになったからって言って捨てたりしない?」
「それはないよ、そんなこと関係なしにお前のこと好きだからさ」

さらっと言われると逆に対応に困るな、その言葉って。

「その言葉、信じるね」
「ん?」
「あたしも好きだよ」
「俺も、ショートのお前のこともきっと好きだ」