【ホーム】


ここは田舎の駅。
電車なんて通っておらず代わりに通っているのは汽車。
なんて田舎な響きだ…
人口も少ないわけだから駅にやって来る汽車も1本逃すと次に来るのは30分後。
そしたら必然的に朝の駅には見慣れた人たちばかりで。

いつもいた。
向かい側のホームに1人立って汽車を待つ彼。
学ランだから何処の学校かはわからないけど、あたしの行く駅とは逆の方向。
乗った汽車同士がすれ違うだけ。
ただそれだけ。

特にかっこいいってわけじゃないと思う。
芸能人顔じゃないし。
学ランのボタンもちゃんと留めてて、ガリ勉…じゃないと思うけど誠実そうな。
そして、全くもってあたしの好きなタイプの男じゃない。
なのに…何故か気になる。

いつも線路越しに彼の姿を探してしまう。
姿のないときは落ち込んだまま汽車に乗って学校へ行く。
あたしの1日の感情は彼に左右されていた。



今日は…いない。
まただ…胸が痛くなる。
淋しさに押しつぶされそうで、思わずしゃがんで俯いてしまった。

「大丈夫ですか?」

誰かに肩を叩かれた。
そっか、こんなところでしゃがみこんじゃったら皆に迷惑だよね。

「スミマセン、大丈夫で…」

ふと頭を上げてその人の顔を見た瞬間。
何故だか涙が零れてきた。

「え、ご、ごめんなさい!僕、悪いことしちゃいましたかね…」

それはいつも向こう側にいた彼。
驚きと嬉しさと入り混じってどんどん涙が溢れて止まらない。

「どうぞ」

差し出してくれた渋い青色のハンカチ。
躊躇いながらも受け取って涙を拭き、なんとか止めることができた。
その間彼に近くのベンチに連れて行かれ、ずっと付いていて貰ってた。

けれどもかなり時間を取ってしまったようであたしの乗る汽車も彼の乗る汽車も出て行ってしまった。

「あーぁ。こりゃ遅刻だな」

苦笑いで言い、沈黙をやぶった彼。

「ごめんなさい…あたしの所為で…」
「そんな…いいですよ。あなたをほっておけなかった僕が悪いんです」

なんて優しい人なんだろう。
知らないあたしなんかの為に遅刻覚悟で付き添ってくれて。
そう思うとまた涙がぶり返してきた。

「え、ちょっと…ごめんなさい…何か悪いことでも言っちゃいましたか…?」
「違うんです…あまりにも優しすぎて…あなたが…」
「…」
「知らないあたしなんかの為に…」
「知ってたよ」
「えっ…」

どういうこと?
ダメだ…目が熱くて、頭も熱くて、上手く理解ができない…
彼は少し俯きながら話し始めた

「僕、ずっとあっちのホームであなたのこと見てたんです」

なにそれ…

「名前も知らないけど、気になって気になって…気付いたら好きになってました」

あたしと同じように彼もあたしのこと見てたんだ…

「今日は少し寝坊しちゃって…いつもより遅く来てみたらあなたが苦しそうにしてたからつい…」

ヤバイ…涙…止まらない…どうしよう…嬉しい…

「あ、だ、大丈夫ですか?ごめんなさい急にこんな話しちゃって…迷惑でしたね…」
「違う…」
「え?」
「あたしもずっと見てたから…」
「そ…なの?」
「今日あなたいなくて…淋しくて…」
「そうなんだ…」

ごめんねと頭を撫でてくれた。
あったかい。
あたしはこれが欲しかったのかな?
そっか…多分あたし…

「好き」
「え?」
「多分あたしもずっと好きだった…」
「多分って…」

彼の困ったような笑い方…可愛い…

「今気付いた…」
「気付くのずいぶんと遅いですね」

そしたら今度はあたしの肩を優しく包み込んでくれた。
泣きながらあたしも彼にしがみついた。

「遅刻して行くのもなんだし…サボっちゃおうかなぁ?」
「学校行かないの?」
「あなたは僕に離れて欲しいの?」

イジワル…

「嫌だ…」
「今日は一緒にサボろっか?」
「うん」


ここから楽しい時間が始まる。
苦しい時間はもうおしまい。。